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<慰安婦強制連行メモ> 安倍政権の閣議決定のトリック(1)

   <慰安婦強制連行」メモ>  

    安倍政権の閣議決定(1) のトリック


2007年の第一次安倍政権による閣議決定は、「強制連行を直接示すような記述は、1993年8月までに政府の発見した資料にはなかった」というにすぎない。
正確には

「安倍首相の『慰安婦』問題への認識に関する質問主意書」(2007年3月8日辻元清美提出)への答弁(2007年3月16日)

「関係資料の調査及び関係者からの聞き取りを行い、これらを全体として判断した結果、同月四日の内閣官房長官談話のとおりとなったものである。また、同日の調査結果の発表までに政府が発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかった」

 

注目点
1)同日の調査結果の発表までに    =1993年8月の河野談話発表までに

2)政府が発見した資料の中には    =あくまで政府調査で発見された資料にのみ目を向けた場合
3)軍や官憲によるいわいる強制連行の   =これを説明して「家に乗り込んでいって強引に連れていった
          (衆-予算委員会-3号 平成18年10月06日)

と 安倍は説明している。   
            (*これは定義になっていないが)
                             
4)直接示すような記述は見当たらない   =直接的なものは発見できなかった

つまり、
(条件1)「1993年までの」
(条件2)「政府調査では」
(条件3)「軍や官憲による「家に乗り込んでいって強引に連れていった」ような連行時の強制は
(条件4)「直接示すような記述は見当たらなかった」

こうしてものすごく狭い範囲で条件を4つもつけて絞り込んで、否定したのが2007年の閣議決定であった。官憲が直接行った強制動員以外は被害者証言も無視した上に連行時における強制以外は無視している。例えば逃げ出した慰安婦憲兵が連れ戻したような場合の「強制」はここで否定している内容には入らないし、女衒が暴力的に動員したような場合も(軍や官憲が直接ではないので)入らない。騙して連れて来たような場合、普通はそれも”誘拐”または”拉致”だが、ここでいう強制連行には入っていない。

また1993年~現在まで歴史学者たちの調査によって公文資料だけでも529点もの資料が発見されているが、これについても完全に無視しているのである。さらに調査は続いており、河野談話は「その研究を見守りたい」と宣していたはずだが、研究者がその後見つけた大量の軍人の手記、軍記と複数の論文も無視している。
こうして、あれもこれも無視していたのがこの「閣議決定」であった。

これはもはや「狭義の強制連行」とさえ言えない。
「狭すぎる強制連行」というしかない。
都合の悪いものは全て無視して、ごく狭い範囲だけを狙って否定したのだ。

にもかかわらず、こうしたピンポイントの否定でも、ちゃんと<強制連行>を裏付ける史料があった。それがスマラン事件であり、1993年8月、「河野談話」が出る直前に法務省から提出され届いていた事が、1995年の国会質疑ですでに分かっている。しかし2013年10月25日、赤嶺議員の質問主意書に対して安倍内閣はこれを「強制連行とは認めない」と回答した。そこで赤嶺氏は、
「日本軍人らが女性を収容所から慰安所に連行し、売春を強制しても『強制連行』でないとすれば、どんな強制連行も安倍内閣のいう『強制連行』に当たらないということになる。まったくの虚構であり、こうした見解は撤回すべきだ」と感想を述べている。(しんぶん赤旗 2013年10月26日)

 
私は共産党という政党が好きではないのだが、この感想はごもっともである。しかし「見解は撤回すべきだ」などと言ってないで政府に「強制連行」およびに「狭義の強制連行」の定義をちゃんとつけさせるべきだ。
彼らは国語辞典にも載っており、国連でも定義がある「侵略」という言葉は定義がないと否定し、逆に国語辞典どころか歴史学のいかなる辞典にも掲載されていない「狭義の強制連行」などという造語を概念定義もはっきりさせないで使っているのである。ムチャクチャだ。



         微妙に変化させて使うというやり方をしている

ところで2007年の閣議決定は、この後安倍氏及び安倍内閣の閣僚によって文言を変化させ、使用されている。

例えば下村大臣は「第一次安倍内閣慰安婦の強制連行はなかったと全大臣による閣議決定されていますが、これは閣議決定により河野談話を否定したと考えて、よろしいでしょうね?」・・・と述べた山田宏議員の質疑に対して「おっしゃるとおりでございます。」と答えている。  (衆 - 予算委員会第四分科会 - 1号 平成25年04月12日)


正確には)
○山田(宏)分科員 当然ですよね。閣議決定というのは、もう全大臣が署名しているんですから、談話というものとは全く違うものであります。
平成五年、一九九三年八月四日に、いわゆる従軍慰安婦にかかわる河野談話というものが出されました。ここの中には、「本人たちの意思に反して集められた」というような表現があり、そのことに対して、平成十九年、二〇〇七年三月十六日、辻元議員の質問主意書に対して、当時の第一次安倍内閣答弁書閣議決定しております。これは、
強制連行を示す記述というものは見当たらないということを、正式に全大臣が署名してやっています。つまり、以前の談話の、いわゆる強制性を示すような文言について、明確に閣議決定をもって否定した。こういうふうに、順序としては、談話と閣議決定ですから、全然重さが違うんですよ。
これはこういうふうに見ていいですよね。当時、官房副長官をおやりになっていたんじゃないかと思いますけれども、当時のことも考えていただいて、私はそういうふうに認識をしていますけれども、いかがでしょう。

○下村国務大臣 おっしゃるとおりでございます。

 

要するに単に「1993年8月までの政府調査によっては、証拠が見つからなかった。」と述べたピンポイント否定の閣議決定を「慰安婦の強制連行はなかった」というより広範な否定に変化させてしまったのである。

さらにまた山田議員は「いわゆる強制性を示すような文言について、明確に閣議決定をもって否定した」と述べているが、これを下村国務大臣も肯定している。
つまり「強制連行」→「強制性」に変化させたのだ。
いったいどんな頭の内容なのだろう?

これは解釈変更でさえない。ただの詭弁である。自分達のした閣議決定の内容さえ記憶していないのだろうか?無意識なのか?もしくは意図的に変えてしまうのだろうか?
安倍政権はスマランを無視して「資料なし」とぼやかし、さらに安倍首相は国会答弁で「証拠はなかった」と意味の変更を行ったのである。

以下の東京新聞の記事はそれなりに要点を掴んでいる。

【2013年6月25日 東京新聞朝刊 12版 25ページ「否定派の根拠揺らぐ」から】


官僚たちは、政府の発見した資料の中に「スマラン事件」が含まれていることを知っていた。

安倍首相が事務局長を務めた「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」の97年の会合で、内閣官房の審議官は「官憲等が直接加担したことがあった。慰安所に入れた事例(スマラン事件)だ」と明言した。

民主党政権では、スマラン事件を踏まえた「答弁メモ」を官僚が作成していた。野田内閣の藤村修官房長官は国会答弁で「強制連行を直接的に示す(旧日本軍などの)公文書は発見されなかった」と述べている。この表現ならば、オランダの資料は除外される。

一方、07年答弁書は、河野談話を誤った解釈に誘導してきた。「公文書なし」を「資料なし」とぼやかし、世間の目からスマラン事件を隠した。さらに安倍首相は国会答弁で「証拠はなかった」と拡大解釈した。これが広く流布した結果、橋下氏ら一部政治家の「証拠なし」発言が繰り返されている。

慰安婦問題に詳しい吉見義明・中央大教授は「河野談話は、誘拐や人身売買による連行、慰安所での強制使役への軍関与を幅広く認めているが、安倍首相は、強制の問題を軍・官憲による暴行・脅迫を用いた連行に極小化し、証拠は文書に限定して強制連行はなかったと言っている。だが、それだけ絞り込んでもスマラン事件という反証がある」と指摘する。

安倍首相ら強制否定派は、河野談話の「ミスリード」にとどまらず、同談話以降に明らかになった資料や証言を無視して取り合わない。
オランダ政府が94年に公表した報告書では、スマラン事件以外にも、未遂を含めて8件のオランダ人女性強制連行事件を挙げている。

日本の裁判所も、軍による暴行・脅迫を用いた強制連行の事実を詳細に認定している。

例えば、中国人慰安婦第一次訴訟の東京高裁判決(04年12月)では「軍構成員によって、駐屯地近くに住む中国人少女や女性を強制的に拉致し、連日強かんする慰安婦状態にした」と、原告の被害事実を認めた。

慰安婦からの聞き取り調査を進めてきたノンフィクション作家の川田文子氏は「裁判所の事実認定は元慰安婦の証言に基づいている。強制否定派が、元慰安婦の証言を無視したり、ウソだと言ったりするのは、残忍な連行や性暴力の事実と向き合いたくないからだ」とみる。

国連の拷問禁止委員会は先月31日、橋下氏らの発言を念頭に、慰安婦問題について「政府当局者や公的な人物による事実の否定に反論を」と日本政府に勧告した。しかし、安倍内閣は18日に閣議決定した答弁書で「勧告に従うことを義務づけているものではない」と突っぱねた。安倍首相自らが「事実の否定」をしているのだから無理もない。

橋下氏も、慰安婦発言について「間違ったことを言ったとは思っていない」と撤回を拒否している。吉見氏は「国連などからは、慰安所で女性の自由を奪い、性こう為を強要したことが性奴隷制度だと非難されている。連行の形態だけにこだわる安倍首相らの議論は国際的に全く通用しない」と警鐘を鳴らす。

川田氏は「安倍首相や橋下氏らの妄言が元慰安婦を一層傷つけている」と批判した上で、「根本的な解決を」と訴える。

「元慰安婦はほとんどが80歳を超えている。訃報も頻繁に伝えられるようになってきた。日本政府の明確な謝罪と補償が急がれる」

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<デスクメモ>
連行先の慰安所に拘束され、本人の意思に反した使役も「強制」だ。戦時下も犯罪行為だった。金のために身売りされた公娼(こうしょう)制の戦地版として当時は合法的との主張も国際社会から認められない。公娼制は国内でも「事実上の性奴隷制」と人道上から批判され、廃止が強く求められていた。(呂)
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こうした詭弁の使い方は、おそらく「特定秘密法」や「集団自衛権」の運用においても使用されるだろう。嘘と詭弁こそ、今日本を覆っている暗雲の正体なのである。