『神社本庁時局対策資料 伝統回帰への潮流 元号法制化運動の成果』が語る国体復活にかける彼等の野望
1、神社本庁の運動目的 「国体の復活」
という著作物がある。http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001433297-00
編集は 神社本庁時局対策本部
出版社も 神社本庁時局対策本部
ごりごりの内部向けの神社本庁本である。
出版は、1979年。
元号法制化運動の勝利感に浮かれて編集したようだ。そのせいか、彼らのファナチックな本音がのぞいている。
おかげで彼等が何を考えているのか?を知ることができる。
こんな本だよ
すぐに目に着く、この本の特徴の一つは、「国体の復活」が謳われている事である。
こんな風に書かれている。
「現体制化でなしうる最低限度の国体をまず恢復し・・・」(p3)
「ひろく皇室の尊厳を護持強化し、国体恢弘を意図する運動・・・」(p4)
*恢弘(かいこう)=事業や制度などを押し広めること
「皇室の尊厳を高め、国体を明確にする運動は・・・・一応の水準まで回復するに成功したと言える。」(p5)
一つ一つ詳しく見てみよう。
(赤線は全て当ブログによる)
①「現体制化でなしうる最低限度の国体をまず恢復し」(p3)
この[元号法制化運動]が「戦後占領体制打破への運動の締めくくり」だと書いている。
占領軍がやったのは、「日本を弱体化政策」ではなく「政治と結びついていた神社を引き離したこと」だが、神社としては恨みがあるらしい。あんなデタラメな思想で日本をムチャクチャにしたくせに、まだ懲り無かったようだ。
そして再び、敗戦前の体制へと復活しようと努力しはじめ、その努力は右翼団体や右翼政治家の協力もあってある程度は実り、「現体制化でなしうる最低限度の国体」は、[元号法制化]で、すでに回復しちゃったというのである。
すると次に来るのは、体制そのものを変える事だ。これがすなわち「憲法改悪」運動なのである。
さて次のページだ。
②「ひろく皇室の尊厳を護持強化し、国体恢弘を意図
する運動・・」(p4)
(要約)
占領政策が、神道を排斥し、愛国心を否定し、国旗掲揚を禁止し、家族制度を破壊し、教育制度を変更させた。神社界はこれを巻き返し、切り崩す運動をつづけてきた。それは政教分離解釈に関する運動と 広く皇室の尊厳を護持強化し国体恢弘を意図する運動の2つに整理することができる。
* ここで「家族制度」が入っている事に注意すべし
(備考)「フェミニストの問題点」
フェミニストたちは、「フェミニズムへのバックラッシュ」などと言っているが、それは全体が見えていないだけである。むしろ第2波フェミニズムが、結婚制度への攻撃を繰り返してきた事をいい機会として彼ら(日本会議に代表される右翼)は明治日本の家族制度を復活させようとしているのである。
明治以降の日本では井上哲次郎や穂積八束らによって[国民道徳]が唱えられ、これが修身の教科によって、全国民に教えられていた。
http://iss.ndl.go.jp/books?ar=4e1f&any=%E5%9B%BD%E6%B0%91%E9%81%93%E5%BE%B3&op_id=1
この[国民道徳]の中では、先祖崇拝と家族制度が表裏一体の関係になっていたのである。(矢野敬一『慰霊・追悼・顕彰の近代』p17~p32、http://iss.ndl.go.jp/books?ar=4e1f&any=%E6%85%B0%E9%9C%8A%E3%83%BB%E8%BF%BD%E6%82%BC%E3%83%BB%E9%A1%95%E5%BD%B0%E3%81%AE%E8%BF%91%E4%BB%A3&display=&op_id=1) 親の恩を感じ入り先祖を敬え、天皇は親だ、だからその恩い報いよ、という論理が成立するからである。
神社本庁がここで、「占領政策が、・・・・家族制度を破壊し・・・」と恨みがましく述べているのは、戦前の家族制度が祖先祭祀と結びついていた背景を理解してはじめて理解しうるのである。
上野千鶴子などに代表される「結婚制度破壊」をもくろむフェミニズムと日本会議などの右翼、その中で蠢く神道主義者らは、いわば「敵対的共犯関係」にあると言えるであろう。宗教右翼は、「結婚制度破壊」をもくろむフェミニズムを批判することで自己の復古主義活動を正当化をしているのである。
③「皇室の尊厳を高め、国体を明確にする運動は・・・・一
応の水準まで回復するに成功したと言える。」(p5)
(要約)
「皇室の尊厳を高め、国体を明確にする運動は,
● 建国記念の日制定運動
● 伊勢・熱田の神器の法的地位確認運動
● 剣璽御動座復古の運動
*神社新報「平成6年4月4日付 主張」
● 皇太子成婚国事行為
● 元号法制化運動
などであり、
現憲法下の制約の下で、一応の水準まで回復するに成功した。
今後は「前進」運動となり、「白黒決する」運動をする。
敗戦直後から神社本庁は、国体を復活させるための運動をしてきたわけだ。
それを、神社本庁が自分で述べているのである。
④p6
そして元号法制化運動を「日本伝統回復の運動」と述べていることも、頭に入れておいてほしい。
2、「国体」とは何か?
簡単に言えば、「日本のお国柄」の事だ。
(そのくせ彼等はしばしば、天皇の意見を無視するという特徴を持っているのだがそれはともかく・・・・)
内容は、日本神話の解釈によってなりたっており、天皇は天照大神の子孫であり、神勅によって日本の永遠の統治権が与えられているという。臣民は臣下としての民であり、また赤子であるので、親孝行をするように天皇とお国に奉仕するのが当たり前である。それが戦前の学校で教えられていた事なのだ。
このような日本神話に元ずく政治秩序を再び日本国の国政の基礎に置こうというのが、神社本庁によって語られていた内容である。
龍馬亡き後、この明治維新は「国体」を唱えた吉田松陰の門下生たちが中心となって達成されたが、その門下生の一人が大日本帝国憲法を作成した伊藤博文であった。伊藤は、「「建國ノ體」を機軸とすることの必要性を強調」している。
http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kenpou.nsf/html/kenpou/chosa/shukenshi027.pdf/$File/shukenshi027.pdf#search='%E4%BC%8A%E8%97%A4%E5%8D%9A%E6%96%87+%E5%A4%A7%E6%97%A5%E6%9C%AC%E5%B8%9D%E5%9B%BD%E6%86%B2%E6%B3%95+%E5%9B%BD%E4%BD%93')
(金子堅太郎『日本に還る』 昭和16年06月30日
そして悪名高い『教育勅語』には「国体」という言葉がちゃんと使われている。
朕惟フニ我カ皇祖皇宗國ヲ肇ムルコト宏遠ニ德ヲ樹ツルコト深厚ナリ
我カ臣民克ク忠ニ克ク孝ニ億兆心ヲ一ニシテ世世厥ノ美ヲ濟セルハ此レ我カ國體ノ精華ニシテ教育ノ淵源亦實ニ此ニ存ス・・・・(略)・・・・・(「教育ニ関スル勅語」)
大日本帝国には、主に2つの政治思想があった。一つはこれまで見て来たような「国体思想」であり、もう一つは西欧由来の「天賦人権論を元にした民主主義」である。(これら以外にも、日蓮主義や唯物論を元にしたアナキズム、共産主義が存在してはいたが・・・)
「国体思想」の方は神道を源にしており、「天賦人権論を元にした民主主義」の方はキリスト教を源にしている。より正確に言えば、古代ギリシャ・ローマに広まっていた歪な民主主義をキリスト教理念で造り変えたのが、「全ての人は創造主の与えたもうた権利がある」という天賦人権思想を根本においた近代民主主義である。
米国の大統領制にあこがれた龍馬を教祖格とした自由民権運動が帝国憲法制定とともに下火となると自由民権運動の中核はキリスト教会へと吸収され、やがて弱々しい民主主義運動であった大正デモクラシーが起こったが、「国体思想」の下で弾圧され、太平洋戦争になだれ込んで行ったのである。
それが我が国の近代史である。