【論説】良貨(真実)が悪貨(虚偽)を駆逐する時代の到来について
「悪貨が良貨を駆逐す」ということわざがある。
なぜ、そうなのか、は知らない。
しかし、もしかしたらそれは、人間の性向の中に、悪に向かい易い指向性があるからかも知れない。人は結構「悪」が好きである。他人を不幸にしてしまう内なる欲望に動かされる事は多いし、苦労して出会う真実よりも、安易に造られた嘘を好んだりもしている。
確かに日本では、嘘が広まりやすい。それは特定の性質をもった嘘を愛し、求めている人たちがいるからである。特に彼らが愛し、求めているのが、「韓国人」に関わる嘘である。できるだけ、韓国人が劣悪、醜悪な民族であることを示すような嘘が好まれているようだ。
★ ある嫌韓デマ
ある嫌韓ニュースサイトが、ひとつの嘘を書いて広めた。
「韓国で、韓国人が日本人女児2人をデパートで強姦したが、無罪判決を受けた」という内容である。
それは致命的なまでにデマだった。そして立ち止まって少し考えてみれば、ネットの中にはこの手の嘘が満ちている事ぐらい、すぐに分かるはずだし、そうであればソースを検討するのは当たり前である。
BuzzFeed Japanのインタビュー記事で、25歳の男はその目的を「金だ」と述べている。https://www.buzzfeed.com/kotahatachi/korean-news-xyz-2?utm_term=.fsKkbY8ozQ#.whN5eVlprx
★ ★ 本当らしさを装う奸智
ただの嘘、作り話にすぎないのに、本当のニュースサイトっぽく見せるための工夫が、むかつくほど巧妙である。「奸智に長ける」とはこういうことをいうのだろう。
そうして作った数十件の「ニュース」を、日本語のサイトに並べる。さらに、Googleを使って韓国語に翻訳した記事を並べた別サイトを作り、あたかも韓国のサイトにソースがあるように見せた。
「ソースがあったほうが拡散されると思ったので、韓国語サイトは、最初のブログを始めたあとに作りました」
そして、記事やトップページなどに、アフィリエイト広告のリンクを入れた。広告以外の収益源として、「ほんとは怖い韓国ニュース」というKindle本2冊を執筆し、Amazonで販売。商品ページのリンクをサイトに挿入していた。
つまり、本物っぽく見せるために、韓国語サイトまで造って、そこがソースであるように見せかけたのである。
おそろしいほど情熱的だが、それは詐欺師が自分の詐欺を成功させるために創意工夫するのとよく似ている。そんな情熱があるなら、仕事でもすればよいだろと思うが、ともかくわずか2週間足らずで計約19万6千PVを獲得し、ツイッターやフェイスブックで拡散されていく。怖い話である。
★ ★ ★ 愉快犯から、商売へ
昔2チャンネルの嫌韓スレには、本気モードの嫌韓に混じってネタ造りの専門家がいた。愉快犯というべき人種であり、人々の反応を面白がっていた。ところがその受け狙いのデマネタを日本人らしくまじめに受けとめてしまう人たちも多数いたのだ。やがてアフリエイトなどの報酬を目当てに、嫌韓マトメサイトが乱立する時代となったのは、ここ数年である。真に受けてしまう人たちをターゲットにしていたわけだ。
多くのデマサイトが造られていたが、これに釣れてしまうのは、ネトウヨと呼ばれる人々である。いや逆かもしれない。こうしたデマに釣られ、信じ込むことで即席のネトウヨが誕生するのだ。誰かが信じ込んでツイートしたり、共有したりするとその情報はまったく検証されないまま拡散していく。かくしてデマだらけの時代となっているのである。
まるで右翼の慰安婦論そのままなのだが、そのデマはしばしば政治家まで巻き込んでいた。ネトウヨたちが拡散するデマを信じて片山さつきがツイッターで沖縄県宜野湾市にある 米・海兵隊の普天間飛行場が「今や鳩山飛行場と言われている」と書いたのは有名な話である。ネトウヨが掲示板で書いていた「NHKの音楽番組で『韓国歌手36%』は多すぎる」 という主張をそのまま信じて2012年3月29日の国会で「三六%が韓国のタレントさんです」と問いただしたのも有名だ。http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/180/0002/18003290002008.pdf(実際は韓国人タレントの占有率は約11%だったことが判明している)

「淫夢新聞」は、有名なヘイトデマ煽動サイトであった。
(批判をうけた鈴木まりこ氏は何を思ったのか、圧力をかけてサイトを閉鎖に追い込んでいる。https://togetter.com/li/1063084 しかし最初からまるで無根拠なネタを信じてしまうのが問題なのである)
何十年か過ぎれば、「昔ネトウヨと呼ばれる人たちがいて、嘘ばっかり言ってたんだって」と笑い話になるのだろうが、今現在直面している我々は結構大変である。いちいち嘘の検証をしていかなければならないからだ。嘘を書くのはただの思いつきで可能だが、検証するのは結構骨が折れるのだ。
慰安婦問題に特化しているこのサイトだが、慰安婦問題で語られる嘘を検証するためには、約800の公文書や大量の元将兵の著作物、慰安婦論文、関連新聞記事などを収集し眼を通す必要があった。それだけでも、かなりしんどい作業だったが、慰安婦問題に直接関係のないネトウヨのデマもいくつか掲載している。
ただ、最近は少し楽になってきた。探せば、いろんな検証がすでになされていることが多いからだ。
日本民族の近代的自我を造った時代に大きな影響を与えたのは、本居宣長や平田篤胤、吉田松陰などである。保守論壇には、彼らを信奉・擁護する人がたくさんいる。しかし、ここで述べたように、彼らは神道的日本中心主義の元祖であり、中韓への蔑視や侵略思想をすでに孕んでいた。
その教えを吸収して生まれた大日本帝国は、太陽の神の後孫としてアイデンティティを持って、他のアジアの人々は見降していたのである。明治に造られた国民道徳に洗脳されていた帝国の臣民たちにとって、天皇の存在はそれだけで誇るべきものであり、同時に天皇を戴かない国々は、劣った国なのだ。そして現在、安倍政権と日本会議が復興させたがっているのがこの「国民道徳」なのだ。
天皇の赤子であることが彼ら(臣民)の誇りであり、その天皇の権威はアマテラスという太陽神にあった。イザナギらが造り、アマテラスが神勅を降して支配を委ねた日本の国土は神国であり、日本民族は選ばれた民族だ。とするならば他の国々は、神国ではなく、他の民族は選ばれなかった民族なのだ。こうして、誇り高くも、酷い差別構造をもった社会が生まれていた。日韓併合や関東大震災時の朝鮮人虐殺なども、こうした文脈から読み解くべきなのである。
太陽の神アマテラスーこの邪神を信奉した人々が、戦争中ありとあらゆる非道をなしたのは、必然だったかもしれない。
天皇機関説などの合理的主張が暴力的に排除され、「国体明徴」が造られた時代(1930年代から45年まで)になると、国中をデマが蔓延しhttp://www.aozora.gr.jp/cards/000231/files/43873_23111.html、同時にあらゆる種類の差別とヘイトが蔓延したhttp://194586245.web.fc2.com/26.html, http://194586245.web.fc2.com/33.html ,http://194586245.web.fc2.com/34.html http://194586245.web.fc2.com/40.html 。
こうして近代的自我が形成した際に造られた歪んだ型が、今日の嫌韓の遠因となっているのである。
★ ★ ★ ★ ★神社勢力は歴史修正主義の魂の源
右翼団体やヤクザ団体の襲名式などは、たいてい神社の神棚の前で行われている。

一方で、在特会などが、神社を信奉し、その集会が神社で行われていることが何度も記録されている。https://matome.naver.jp/odai/2141266306567855801
さらに言えば、今日ネトウヨが信奉する「南京虐殺否定論」などの歴史修正主義を1980年代から宣伝し続けたのは、神社本庁の機関紙 『神社新報』であった。神社勢力は歴史修正主義の魂の源なのである。日本の歴史修正主義とは、端的にいえば、歴史を捻じ曲げた神道的(日本主義・国粋主義的)妄想のことである。彼らは自分が信じたい歴史を信じるのだ。まるで宗教の教えを信じるがごとく。