慰安婦狩り集めのための契約書を読むー日本の慣習的奴隷制度
この手の契約書は、女衒が遊郭の花魁集めにおいて使ったものとほぼ同じだが、最初から騙した事例の多い朝鮮半島や台湾では使われなかった。もし契約書を使った場合も、小学校を義務教育として無料だった日本内地とは異なり、無料教育が存在しなかった植民地では、ほとんどの女性が文盲であったから、文章も読めずにサインさせられたということになるだろう。
宋神道さんの場合、前借金自体が存在しないにも関わらず、汽車賃や着物代金を前借金とされ、それだけでなく転売さえされている(『オレの心は負けてない』)。こうした悪質な犯罪が蔓延していたのが日本軍慰安所である。
契約書
一、稼業年限
一、契約金
一、賞与金は揚高ノ一割トス(但シ半額ヲ貯金スルコト)
一、食費衣裳及消耗品ハ抱主負担トス。
一、年限途中ニ於テ解約ノ場合ハ元金残額違約金及抱入当時ノ諸費用一切ヲ即時支払ヒ申スベキコト
右契約条項確守履行仕ル可ク依而契約証書如件。
昭和 年 月 日
本籍地
現住所
稼業人
現住所
連帯人
殿
金員借用証書
一、金
右之金員拙者要用ニ付キ正ニ請取借用仕候事実正也然ル上ハ返済方法ハ別紙契約書ニ基キ 酌婦稼業ヲ為シ御返済申ス可ク万一本人ニ於テ契約 不履行ノ節ハ拙者等 連帯者ニ於テ速カニ御返金仕ル可ク為後日借用証書依而依如件
昭和 年 月 日
本籍地
現住所
借用主
現住所
連帯者
殿
これは以前紹介した
「上海派遣軍内陸軍慰安所ニ於ケル酌婦募集ニ関スル件」(1938年1月19日付)
の前借金の名を借りた【人身売買の契約書】である。
一、年限途中ニ於テ解約ノ場合ハ元金残額違約金及抱入当時ノ諸費用一切ヲ即時支払ヒ申スベキコト
なぜ、これが【人身売買の契約書】なのかと言えば、辞めることができないからである。まず、陸軍慰安所ニ於テ酌婦稼業ヲ為スコト」と規定し、次に「年限途中ニ於テ解約ノ場合ハ元金残額違約金及抱入当時ノ諸費用一切ヲ即時支払ヒ申スベキコト」としており、要するに「途中で辞めるなら、その時に全て借金を返せ」と述べている。その上、連帯保証人欄が縛りを入れており、これでは仕事を変えることができない。
通常の借金はそれをどうやって返すか?を規定しない。しかしここでは、借金を返すための方法が「慰安所での売春」として規定され、借金を返すためには所定の場所で売春をするしかない。ゆえに「強制売春」の契約書といえる。日本でこの手の契約書が全面的と無効とされたのは、1955年の最高裁の判例である。それまでは国家として「強制売春」を認めていたという事である。逃げられないようにした上で売春の強制をしていたとすればそれは、「性奴隷制の契約書」というしかない。
一、賞与金は揚高ノ一割トス(但シ半額ヲ貯金スルコト)
永井和の論文によると、「この契約を結べば、前借金(借金額は500円から1000円だが、そのうち2割は周旋業者や抱主がさっ引くので、実際の手取りは400円から800円まで、2年で2割5分の甚だしい高利である)を受け取る代わり に、向こう二年間軍の慰安所で売春稼業をつとめなければならない。衣類、寝具、食料、医薬費は抱主の負担とされているが、給与は毎月稼高の一割だから、かりに毎日兵士5人の相手をして(日本国内の平均人数)、実働25日としても、月25円にしかならない。50円を稼ごうとすれば、毎日10人を相手にしないといけない。」
という。
一日5人では、月の給与は25円にしかならない計算だが、さらにそのうち半分は「貯金スルコト」と書いている。これをわざわざ契約書に書くということは、「強制貯金」であったということである。こうした強制貯金については、元慰安婦たちの証言にもたびたび「国防貯金」として登場しており、通帳は誰が持っているのかさえ分からないが、とにかく名目として存在していたらしい。もちろん返還された記録は無い。いわば、軍が彼らの「聖戦」を遂行するための「盗り逃げ」の強制貯金だったのである。