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西岡力の「韓国・北朝鮮」「労務動員」に関する論説を概観する

 

 

西岡力の「韓国・北朝鮮」「労務動員」に関する論説を概観する
       ★ 韓国・北朝鮮を敵にしようという西岡力
2000年に刊行した『金正日金大中 南北融和に騙されるな』で「金正日不快感を与える外交を」と主張した西岡力は、
 
 2005年の『韓国分裂』では「金日成は悪という認識で連帯を」と主張した。
 
 2017年の 『ゆすり、たかりの国家』では
ヒトラーより危険金正恩
「「拉致カード」で北朝鮮追い込め
スターリンを真似て夢見る文在寅
など・・何言ってんのレベルの言葉が並ぶ。
西岡のこうした言説は、ただの北朝鮮・韓国パッシングではない。
自分たちが歪曲してきた歴史に関する正当化のための言説であり、前回指摘した「慰安婦陰謀論」を形つくっている。
朝日新聞「日本人への大罪』2014では、北朝鮮の工作機関は日韓が和解しないように継続的に介入してきた」「北朝鮮と韓国内従北差はは反日を利用して反韓自虐史観を韓国内に拡散する政治工作を成功裏に進めてきた」(p216-7)という。こうして北朝鮮が韓国の歴史戦の背景にあるという主張を繰り広げている。ネトウヨのように韓民族そのものを敵視していると言い換えてもいいだろう。
 
もう政治扇動家というしかないが、この人、安倍5人組の一人であり、安倍に徴用工のことを「労働者」と言わしめた人物である。
きわめて政権に近い人物が、「対立扇動家」であるということが我が国の不幸である。
ちなみに西岡力は、第一回日本会議中央大会に参加し、拉致問題で講演している。日本会議、安倍政権と自民党産経新聞と『正論』などの歴史認識を形成するキーマンの一人である。
            ★★
数年前、東京基督教大学を辞め(クビという噂もある)麗澤大学客員教授になった。モラロジー研究所理事長、麗澤大学第3代学長の廣池幹堂は日本会議の代表委員の一人である。
西岡は客員教授のほかに、「公益財団法人モラロジー研究所教授 歴史研究室長」という肩書もついている。これはいわいる彼らの「歴史戦」をやるための転職で、歴史認識問題研究会というグループをさっそく造っているのだ。
疑似歴史学会というべきものだが、<顧問>に歴史学者伊藤隆がいる。ただし名前があるだけで何一つ論文を書いていない。「新しい歴史教科書をつくる会」を高評価した博士論文を書いたばかりの長谷亮介の名前にも<事務局次長>という肩書がついている。
後は日本会議関係人物が並んでいる。
<副会長>高橋史朗麗澤大学大学院特任教授
<事務局長>勝岡寛次明星大学戦後教育史研究センター
<事務局次長>長谷亮介
<監査>島田洋一福井県立大学教授
<顧問>伊藤隆東京大学名誉教授(
<顧問>櫻井よしこ:ジャーナリスト
<顧問>田中英道東北大学名誉教授
<顧問>渡辺利夫拓殖大学学事顧問・前総長
 
この歴史認識問題研究会ー会報第3号歴史認識問題研究』(2018114)では徴用工特集「朝鮮人戦時動員に関する研究」なのだが、ここで西岡が書いた論文は例によって、徴用された朝鮮人の苦痛を打ち消すために2つの史料が使われている。
一つは①在日朝鮮人関係資料集成第5巻』p50-53「逃亡セル集団移入半島徴用工員の諸行動に関する件』の「金山正損の手記」でもう一つは②朝鮮人徴用工の手記』忠海(チョンチュンヘ)(1990初版)だ。
実はこの二つの史料は、西岡の論文・著作の定番で、
『日韓歴史問題の真実』2005 
朝日新聞「日本人への大罪』2014
『正論』2019-3増刊「歴史戦 虚言の韓国 捏造の中国
『歴史を捏造する反日国家・韓国』2019
でも、使われている。
 
文章もほとんど同じなのだが、『日韓歴史問題の真実』朝日新聞「日本人への大罪』『正論』2019-3増刊「歴史戦 虚言の韓国 捏造の中国では「逃亡セル集団移入半島徴用工員の諸行動に関する件』の「金山正損の手記」の引用元を『在日朝鮮人関係資料集成第4巻』にしていた。
正しくは「第5巻」である。昔読んだ時には、随分雑な資料の扱いをする人だな、と思ったが、歴史認識問題研究』(2018114)では訂正されている。そこだけが進化というものだろう。
しかし、同じ事ばかり書いていて、よく読者は怒らないものだ。
 
         ★★★
 
資料解説も杜撰である。
   
西岡は「金山正損の手記」を「朝鮮人徴用工の姿をよく示す資料」で、「高賃金、軽労働の飯場生活」などの見出しを立て、これを根拠に「「反日日本人」は、実態を知らないでやみくもに日本批判を展開する韓国の主張を根拠として日本批判を展開する。歴史を歪め日韓の真の友好を妨げている元凶というべきだ」などと主張している。(歴史認識問題研究』3号)
 
しかし、この資料は徴用された人が逃げ出した先で、同じ朝鮮人に出会い、そこは好待遇だったというだけの史料である。あくまで逃げた先での話であり、労務動員の実態に迫る資料とは言えない。
 
もう一つの忠海朝鮮人徴用工の手記』の方は、職場恋愛をしたり、職場の近くに海が近くにあり海の幸をとって宴会したことが好待遇の根拠のように述べているが、職場恋愛の話も海の幸の話も偶発的な出来事である。また不倫関係を誘うのが日本女性であり、しかし親しくしていた本人を誘うのではなく、本人の友人(朝鮮人)に打ち明け、仲介を依頼する、さらに別れるときも特にモメて愁嘆場を演じることなく簡単であり、どうもリアリティの乏しい話が続く。「夜出歩くのが自由だった」という話もこの著作にしか存在しない話である。
 
一つの歴史事象について、できるだけ多くの歴史資料を集め、資料批判をして使うのが歴史学的探究法だが、2つの資料だけを繰り返し使うのはただの政治プロパガンダに過ぎない。他人に「実態を知らない」などと嘯くのは、もう少し広範囲に探究してからしたらどうなのか。
 
 
 
 
*注 (西岡は櫻井よしこらの国家基本問題研究所研企画委員兼研究員でもある)