河野談話を守る会のブログ2

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ー寓話


「あらすじ」
自分の父親が悪事を犯して殺された。しかしそれが信じられず、偽りのストーリーにすがりつき、「父親は(本当は)正義の人だった」と思い込みたい女性イライザの物語り。
この物語りを通してネトウヨ心理を探る。




自分の畑でコカインを育てている人がいて、その人の家にある日、突然捜査が入った。驚いた彼は隠し持っていた銃で警官を撃とうとしたが、逆に撃たれて即死した。
その様子を幼い娘のイライザは見ていたが、やさしかった父親がなぜ殺されたのか?は分からずただ泣いていた。母親は本当の事を言うに偲びず、「パパは悪い人に殺されたの」と娘に説明したが、半年後には後を追うように他界した。

それから、イライザは叔母夫婦に育てられたが、育つにつれ、父親が不法なコカインの密売をしていて警察に殺されたのだという事を知った。その事は村人の誰もが知っていたからだ。そして月日が流れて行く。

そしてある日一人の男に出会った。この男は実は父親の悪事をそそのかした張本人であり、詐欺の常習犯だったのだが、イライザには”父親の友人”とのみ自己紹介し、こう言った。

「本当の事を教えよう」
こうして男は話し始めた。

男が言うには、世間一般に、イライザの父親はコカイン取引をしていて射殺された事になっているが、それは警察が流したデマであり、父親は本当は正義の人で、国民党の諜報員の一人だった。彼は当時のガリヤ市長の悪事を突き止めたが、ガリヤ市長は、警察を使って彼を口封じに殺した・・・・というストーリーである。もちろん造り話に他ならない。男は”自分も仲間だった”と付けくわえ、神妙な顔をして彼の死を悼んでみせた。男がこうしたのは、美しい娘に育ったイライザに欲情していたからである。

イライザに劇的な変化が起った。彼女は、幼い頃父親の胸の中でうずくまった安らぎを思い出した。あの優しそうな父親が犯罪者だって?それは、いつも心のどこかにひっかかっていた疑問だった。長い間その疑問を押し殺して来たのだ。突如として母親の言葉が蘇る。「お父さんは素晴らしい人だったのに、悪人の殺されたのよ」
そうだ。そうに違いない。あのやさしいお父さんが犯罪者のはずがない。きっとそれは嘘なんだ。

その頃、イライザの暮らす地域では、警察と議員の癒着による不祥事が続いていた。その事は何事かをイライザに証明しているように思われた。警察は信用できないのだ。善良な市民を犯罪者にでっち上げる事だってやるじゃないか!新聞だって、どうせ警察に逆らえやしないって村の誰もが知っている。マスゴミは信用できないんだ。

全てが腑に落ち、急に視界が開けたような気がした。今や求めていた真実に出会ったのだ。

イライザの中にある種の確信が生まれようとしていた。客観的には何の根拠もない確信に過ぎなかったが、それは失った家族への情愛や社会への反抗心に根差していただけに、強固であったのかも知れない。それは嘘を元に造られた物語りである。その物語りをイライザが信じたのが、全ての不幸の始まりなのだ。なぜなら、その物語りの中では彼女を獲物として狙う詐欺師が、彼女の唯一つの味方であり、頼るべき保護者のように感じられたからである。

その夜、イライザは自分を育ててくれた叔母夫婦とケンカした。
伯父は説得しようとしてこう言った。
「事実なんだよ、イライザ。それは事実なんだ。」
しかし、イライザは頑として言い放った。
「お父さんが犯罪者だなんて嘘よ。おじさんは、自虐史観に洗脳されているだけ。警察やマスゴミがそう言ったから信じてるんでしょう。警察が当てになるもんですか!見なさいよ、世の中を・・・」
世の中の事なんて何も知らない彼女がこう言い放つのを伯父も伯母も、唖然とし立ちすくんでいた。
翌日、彼女は出て行ったのである。

外見上、彼女の何が変わったわけでもない。しかし瞳に半ば狂気が宿っている。いつか彼女がその”偽りの世界”に気付く日が来るのだろうか?それは多分誰にも分からないだろう。