河野談話を守る会のブログ2

ヤフーブログ閉鎖のため移住しました

研究会「慰安婦問題にどう向き合うか」を報告(後半)



ここで他の『帝国の慰安婦』擁護派の意見をまとめてみよう。


浅野豊美氏は『帝国の慰安婦』を限りなく善意に解釈していた。『帝国の慰安婦』は、「帝国システムの構造的解明」で、朴の日本語版は「粘り強く説得する手法だ」といった具合である。

レジメを読み返してみても意味あるものはあまり見当たらないのだが、ひとつだけ記憶にとどめるべき発言があった。<アジア女性基金>に参加した際、秦郁彦氏を追い出した有名な事件で、その原因を「秦氏がエッセイを論文の中に混入させようとした。」と表現していた事である。浅野氏はそれをつぶさに見ていたそうだ。この日の浅野氏の発言の中で唯一有益な情報だったと思う。

秦氏慰安婦関係の全ての著作がエッセイのようなものだが、秦氏自身は自分の著作が個人的な体験や感想を語るだけのエッセイのようなものだとは、思っていないのかも知れない。



岩崎稔東京外国語大学総合国際学研究院)教授は、『岩波講座アジア・太平洋戦争 戦後篇 記憶と認識の中のアジア・太平洋戦争』に所収されている長志珠絵氏と共著 『「慰安婦」問題が照らし出す日本の戦後』 の一部(P223~P255)をレジメとして出していた。長いので引用はしないが、興味がある人は読めばいいだろう。

この論稿の問題点は『帝国の慰安婦』が歴史修正主義の延長上にあることを気付いていない点である。
歴史修正主義はときに実証主義を標榜しながら、・・・」(p232)

というフレーズは、岩崎氏が擁護したがっている『帝国の慰安婦』にこそ言えるだろう。結局のところ、『帝国の慰安婦』の方法論と著述内容に関する考察を欠いていると言わざるを得ない。
「批判者の中で朴のテキストはきちんと読まれて来なかった」(p236)

とも述べているが、個別具体的に指摘された『帝国の慰安婦』の問題点についてまったく反論できないでいる自分たちの方がちゃんと読めていないのである。
金富子氏が批判した上野氏の『ナショナリズムジェンダー』と『帝国の慰安婦』の「少女イメージ批判」をそのまま肯定する誤謬も犯している(p237)

韓国や台湾の慰安婦については実際に少女(未成年女性)が多かったのは研究によって知られて来た事実である。これに対して上野氏や朴氏、岩崎氏らが、「それは造られたイメージ」だとしたいなら、それを証明しなければならないのは彼らである。先行研究を無視して、言い張るだけというのは許されない話である。
ところで、朝日新聞の若宮氏は、金富子氏の報告の際にも、拍手をしていた。内容の実証性を理解したと言う事だろう。



この研究会を韓国のハンギョレ新聞が【日本のリベラル陣営でも「帝国の慰安婦」めぐり激論】という記事で、報道している。http://japan.hani.co.kr/arti/international/23733.html
一応目を通しておいて欲しい。

ハンギョレが書いているのは、西成彦氏、チョン・ヨンファン氏、中野敏男氏の発言だが、この日最も重要な意見を述べたのは梁澄子(ヤンチンジャ)氏だったと私は思う。梁氏の報告は岩崎氏のレジメの事実誤認の指摘であった。なんせ岩崎氏は

韓国では『帝国の慰安婦』の出版差し止めを求める訴訟が起こされた。それほど挺対協が特別な権威を与えられてしまっていること自体が不健全であるとした問いかけは今も決して十分には受け止められていない。
(p244)

とまで書いてしまうほど慰安婦問題を知らない人である。挺対協ではなくナヌムの家のハルモニたちが起こした裁判だという事さえ理解できていないらしい。こうした混同を引き起こしてしまうのは、ドシロウトだからだ。
この部分の他にも数点を梁氏は指摘していた。

しかし、梁氏が本領を発揮したのは、討論に移っからである。

上野千鶴子氏が登壇し、いつもの軽い口調で「チョンさんパフォーマンス」だとか「書物を法廷に立たせない」とか「業者主犯説は誤読だ」とか述べていた。英語を混ぜるのもいつものやり方で「グラジェーション」とか「エージェンシー」とか聞こえてくる。それから千田有紀氏や中西新太郎氏が登壇し、やがて3人対3人の討論となったわけだ。

西氏が「(『帝国の慰安婦』は)有益だと思っている」とか何とか言って、それから上野氏が「刑事告訴は不適切だと合意したい」と言いだした。なるほどそういう作戦だったらしい。
刑事告訴は不適切だと合意した」とハンギョレに書かせたかったわけだ。

もし誰も反論しなければ会場から私が声を出そうと準備していたのだが、あいにくというか、ラッキーというかちゃんと鄭栄桓氏が、「私は反対です」と述べて反対した。
上野氏は「幸か不幸か、刑事告訴がこの場を設けた」と述べる。
すると梁氏が「こんな間違いだらけの本が出たからです」と小さく、しかししっかりした声で言った。
何の脈絡があるのか知らないが、上野氏は「A側は多様だが、B側は一致している」と述べる。「A側」とは、擁護派のことであり「B側」とは批判派の事だ。
これも梁氏が撤回を要求した。
誰の発言かは分からないのだが「上野氏は「植民地支配の罪がこの本の要点だ」と述べたが、この本はそんな事を書いてないんじゃないか?」という声もあった。
「文献や証言が、元々の意味から切り離されている。」と小野沢氏。
「日本を免責した本だから受け入れた」と梁氏。
それから梁氏が2分間ほど話した。
こんな話だった。
「(支援団体がハルモニたちを操ってるという言論があるが)、戦地の慰安所でハルモニたちに気を使って近づく人はいない。だから彼女たちは誰よりも人の本性を見抜く。」
「・・・朴裕河氏は、対質尋問をドタキャンした後、2度と対質尋問をしなかった。」
「日本に対して失礼だからと日本語版の変更を拒否した」
朴裕河氏は、調停の際にナヌムの家に「謝れ」と要求した。」という驚くべき情報もあった。
これに対して上野氏が 「刑事告訴したのは韓国の司法だ」と述べ、すでに述べたような形で退場したのである。

この後、多分岩崎氏だと思うが、「第3者がハルモニに会えるようにしろ」と述べていた。この人は会おうとしたことが無いらしい。申し込めばたいてい会えるのだが?だいたいそれをこの場で述べてどうしようというのだろう?これまで24年間、何度もハルモニたちは来日したし、大抵は証言が終わった後に交流会をしていたのだが、どうして会いに来かなかったのだろうか?  
謎である。

(付記ー4月1日:発言は浅野氏という情報あり、コメント欄)

それから、ハンギョレが書いているように中野敏男氏のまとめがあり、それは結構長かった。ハンギョレに特に付け加えることはないが、中野氏は「兵士は慰安婦と共に被害者であるというのは、けっして新しい主張ではない」という意味の事を述べていた。

そして本橋氏が、「署名したことを反省する」と表明し、賛同を撤回したのである。この日の最大のエポックであった。

結局『帝国の慰安婦』とはどういう著作なのか?「新しい視点をもたらした」という人もいるわけだが、多くの部分が昔秦郁彦氏が述べたような事。昔上野千鶴子氏が述べたような事。昔黒田勝弘氏が述べたような事。昔小林よしのり氏が述べたような事を、資料を歪曲しながら、再生産したにすぎないのである。こうした一種の教義(ドグマ)を宣伝したものであるがゆえに、『帝国の慰安婦』には事実誤認が多くなる。そしてその『帝国の慰安婦』を擁護している人々にも、事実誤認が多い事が今回の研究会で確認されたのであった。


    (当日、録音も撮影も禁止されていたので、この文章は当会
    が作成したメモに基づいています。もし誤記等がありました
    ら、指摘してください。)