秦郁彦の語るヘンテコ慰安婦物語
それにしてもたった一人の詐欺師が、日韓問題を険悪化させ、日本の教科書を書き換えさせ、国連に報告書まで造らせたのである。虚言を弄する吉田という男は、ある意味ではもう一人の麻原影晃とも言えないか。(『慰安婦と戦場の性』P247)
(猪瀬直樹の評言を引用しているが、「総括に代えたい」と書いており、秦の総括であると言える)
吉田清治ってそんなに影響力の強い人間だったんだ?
へェー?て感じだよね。
吉田清治は
①日韓問題を険悪化させ
②日本の教科書を書き換えさせ、
③国連に報告書まで造らせた
もしこれが本当なら、大変な影響力である。
まず、まいどの話だが、この中の、日韓問題を険悪化、日本の教科書を書き換えさせ、には何の根拠もあげておらず、脚注もついていない。つまり根拠のない考えに過ぎない。
③さて 「国連に報告書まで造らせた 」は、全然違うよね。
「クマラスワミ報告書に影響を与えた」というのは正しいのだが、クマラスワミ報告書の中にほんの数行書かれただけであり、「報告書まで造らせた」などと書いてしまうと誇大表現・捏造表現である。
実証史家なんだからもう少し実証的に書けよ!
②日本の教科書を書き換えさせ?
吉田清治の著作の否定は、1992年の8月にはニューヨーク・タイムズにさえすでに「秦の吉田=詐欺師」説が掲載されており、秋には否定論がほぼ出そろっていた。韓国でさえ93年に挺対協が出した『強制連行された 朝鮮人軍慰安婦たち』の中で否定されていた。
また日本の近現代専門の歴史学者で、吉田の著作を鵜呑みにして書いていた人間は一人もいなかった。吉見義明も林博文も吉田を資料として使った著作は存在していない。朝日新聞は、「慰安婦キャンペーン」はやっていただろうが、秦の書いた表(P235~P242)では、吉田は2年間で4回しか朝刊に登場しておらず、「吉田キャンペーン」なるものがあったとは到底言えない。「朝日が吉田キャンペーンをやった」というのは、やはり右派論壇の誇大表現である。
教科書の著作者たちはそんなに世情に疎いのだろうか?
だいたい97年の中学歴史教科書には「強制連行」と書いたものさえなかった。(近いのはあったが)
*随分昔に家永は書いていたが、家永は古代思想史が専門
金学順さんが名乗り出た事の方がはるかに大きな出来事だった
つまり「吉田清治が日本の教科書を書き換えさせた」なんてまったくデタラメである。影響力の点では吉田清治なんかよりも、元慰安婦の金学順さんが名乗り出た事の方がはるかに大きな出来事だった(1991年8月)。
これを知って、9月にはフィリピンのマリア・ロサ・ヘンソンさんが、名乗り出て慰安婦問題は一気に戦時補償の重要課題となったのだ。
いくら、吉田が「奴隷狩りをやった」と訴えても、被害女性がいなければ、まったく無意味であろう。
①日韓問題を険悪化
吉見先生が『軍慰安所従業婦募集の件』など5点資料を発掘・発表するまで、日本政府は「民間業者が連れ歩いた」「軍は関与していない」と言い続けていた。
1992年1月11日の朝日新聞朝刊第一面に掲載された『軍慰安所従業婦募集の件』などの資料は、「関与してない」という政府の逃げ道を塞いだが、「よい関与論」や「日韓基本条約で解決済み論」が生まれ別の逃げ道が用意された。こうした過程で「慰安婦はただの商売」「証拠があるなら出せ」(『ドキュメント 「慰安婦」問題と教科書攻撃 』俵 義文 (1997/6) より)などという度重なる政治家(複数)の妄言に、韓国民と韓国政府が非難の声をあげたのである。
その様子を見て、「韓国は反日になった」とバカな事を言ってたのが、豊田有恒や黒田勝弘などであった。元慰安婦に同情的だった韓国人としては「慰安婦は当事の公娼であって・・・」と永野法相などが言った事に対する当然の反応であろう。
だから日韓関係険悪の大元は大日本帝国がやらかした事である。
秦郁彦をはじめとする右派論壇は、「吉田清治」を誇大に宣伝し、これが「詐欺師であった」として「慰安婦問題自体が吉田の詐術の賜物であるかのような事をいう」が、もちろんこれはデタラメであり、それはNGOや市民団体がよく知っている。我々は全員が、吉田の話を聞いて活動を始めたのではなく、元慰安婦たちの話を聞いて、何とかしたくて活動を始めたからである。
結局、彼らはこのような詐話をする事で、我々全体の活動を甚だしく冒涜している。