因果応報
永井壮吉 『荷風全集第24巻(断腸亭日乗・4)』
1994
東京で
(昭和16年)6月18日」
「町の噂」
「芝口辺米屋の男3、4年前召集せられ戦地に在りし時、漢口にて数人の兵士と共に或医師の家に乱入したり。この家には美しき娘2人あり。医師夫婦は壷に入れたる金銀貨を日本兵に与え、娘2人を助けてくれと嘆願せしが、兵卒は無慈悲にもその親の面前にて娘2人を裸体となし思う存分に輪姦せし後親子を縛って井戸に投込みたり。此の暴行をなせし兵卒の一人やがて帰還し留守中母と嫁とを預け置きし埼玉県の某市に到りて見しに、2人の様子出征前とは異り何となく怪しきところあり」
「留守中一夜強盗のために母も嫁もともども縛られて強姦せられし」
「かの兵士は(漢口のこと)を回想せしにや、程なく精神に異状を来し、戦地にてなせし事ども衆人の前にても憚るところなく語りつづくるようになりしかば、一時憲兵屯所に引き行かれ、やがて市川の陸軍精神病院に送らるるに至りしと云う」
(p527~p528)